太陽系外惑星の新機軸:地球型惑星へ

文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型) 23年度~27年度

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採択公募研⑩

視線速度法による地球型惑星検出のための超広帯域光周波数コムの開発
小谷 隆行(国立天文台)

 

 1995年に太陽系外の惑星(系外惑星)が初めて発見されて以来、これまでに多くの系外惑星が見つかっている。特に近年、ケプラー衛星によって地球サイズの惑星候補が多数発見されているが、太陽系近傍の恒星については、ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)にある「1地球質量」の惑星検出には至っていない。よって今後の系外惑星研究の目指すべき最重要課題は、太陽系近傍の恒星まわりのハビタブルゾーンに存在する、地球に似た惑星を検出し、生命を宿す可能性のある惑星が普遍的な存在であるのかを明らかにすることであろう。

 このような背景のもと我々は、近赤外線での視線速度法によるM型星まわりの惑星探査に着目し、すばる望遠鏡用の赤外線視線速度測定装置Infrared Doppler(IRD)の開発を進めてきた。地球型惑星を検出するには、広い波長帯域(970-1750nm)に渡り高い安定性を持つ波長基準が必要である。我々は東京農工大学の黒川教授らと共同で、広い波長帯域に等間隔で配置された多数の輝線スペクトル「光周波数コム(以下光コム)」の開発を進め、これまでに1200-1750nmをカバーする世界でも屈指の広帯域光コムの開発に成功している。本研究では、開発に成功している光コム技術を応用、発展させることで光コムをさらに短波長側へと伸ばし、970-1750nm全てをカバーする超広帯域光コムの開発を目指している。これによって1m/sを超える視線速度精度達成し、太陽系近傍の恒星について地球型惑星分布を明らかにすることができ、低質量星まわりの地球型惑星形成論の検証に繋がる。また太陽系近傍の地球型惑星分布を明らかにすることは、将来の惑星大気の直接撮像分光による、究極的には生命兆候の有無の確認にも繋がるものである。加えて、ハビタブルゾーンにある「1地球質量」の惑星を発見することは、天文学の範疇を超えた、人類の夢の一つであり、社会に与えるインパクトも非常に大きい。地球型惑星検出に必要な視線速度測定精度1m/sを超える精度を実現するには、970-1750nmという非常に広い波長域での波長基準が必要となる。

 本研究で解決すべき主な課題は、①光コムの970nmまでの短波長化と、②光コムを分光器に導入し、実験室およびすばる望遠鏡による観測で、1m/s以上の測定精度を確認することである。光コムは、光ファイバーに短光パルスを入射させることで生じるが、我々が独自に考案した手法によりさらなる広帯域化を目指している。1. 最適ファイバーの使用:予備実験により、光コムを短波長側に伸ばすには特定の特性を持つ特殊なファイバーが有効であると判明している。既存ファイバーでは短波長化には限界があるため、より短波長化に適したファイバーを新たに開発する。また、ファイバーの種類により、光コムが生じる波長域が異なることが確認されている。波長較正を高精度で行うためには、一様な光コム分布が必要であり、帯域の異なる複数のファイバーを連結させ全波長域をカバーする。2. ファイバーに入射させる光パルスのピークパワーを高めることで、短波長化が可能であることがわかっている。そのために光増幅器・パルス圧縮器の性能向上を行う。図1は、これまでに実験室で得られた光コムである。目標である波長域をほぼカバーすることに成功している。

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図1:実験室で得られた光コムのスペクトル