採択公募研⑨
高空間分解能の電波観測から原始惑星系円盤の乱流状態を求める理論モデル
竹内 拓(東京工業大学)
惑星形成とは、原始惑星系円盤において、1μm程度のダストが集積し直径1万km以上にまで成長する過程である。この惑星形成過程のうち、もっとも謎に包まれているのが、その初期段階である直径1km程度の「微惑星」ができる過程である。原始惑星系円盤の中で、固体成分は1%ほどしかなく、常に円盤ガスから力学的な影響を受けている。とくにダストが小さい時にはその運動は、円盤ガスに強く支配される。そこで、微惑星形成を考えるうえで、円盤ガスの状態、特に、ガスが「層流」状態にあるのか、「乱流」状態にあるのかは、極めて重要である。
現在、すばるやALMAなどによる原始惑星系円盤の高分解能観測が進んでおり、これによって、円盤ガスの状態がわかってくることが期待される。特に、円盤ガスが乱流状態にあるか否かは、微惑星形成の解明にあたって極めて重要な問題であるが、ALMAは円盤の構造を1AUスケールで分解することができ、円盤乱流の問題に何らかの解決を与えると期待される。微惑星形成の理論は、これまで「適当な」円盤ガス条件を仮定してきたが、「現実の」円盤ガス条件のもとでの理論構築ができるようになる。 そこで本研究では、ALMAでのダスト連続波観測と比較可能な、円盤乱流状態を求める理論モデルの構築を目的とする。ALMAでは、円盤ガスの乱流速度場を分子輝線幅から直接検出できる可能性があり、これは乱流の研究において極めて重要である。しかし、円盤の赤道面と上層部で乱流速度が大きく違う可能性があること、分子輝線が円盤赤道面を必ずしもトレースしないこと、より高分解能の空間構造は連続波の観測から得られること、を考えれば、「乱流があるかないか」という0次のオーダーの議論を行うには、ダスト連続波の観測から得られた円盤の面密度構造を使って議論するのがよい。ダスト連続波は円盤赤道面まで見通すことができ、円盤降着を探るには有利である。
そこで、本研究では、1. 円盤のダスト連続波の観測から、円盤乱流の情報を取り出す理論モデルを構築する。それをもとに、2. ALMAの観測データと比較することにより、ガス乱流の状態を解明する。ALMAの円盤観測では、乱流に的を絞った分子輝線の観測天体数に比べると、連続波による円盤面密度分布の観測天体数は圧倒的に多くなると期待される。これらのデータを有効に使った比較研究を行うことを目的とする。
原始惑星系円盤の乱流維持機構としては、磁場を介した差動回転不安定が最も有力である。円盤の中心星から遠い領域(>数~数十AU)では、磁場とガスとの結合が強いため乱流状態になるが、円盤の内側部分は磁場がガスと結合せず層流となる。外側円盤から降着してきたガスは内側部分にたまり、円盤の内側部分での密度が高くなる。つまり、乱流状態の違いが密度の違いとして現れる。ここで、乱流の強さは円盤を縦に貫く磁場の強さに依存するため、円盤密度構造を理論的に計算するためには、磁場の強さも同時に決める必要がある。この問題に対し、我々は、磁場と円盤の進化を同時に解くという、新しい研究を行っている。これまでに、定常問題の解を導出することに初めて成功した。定常問題の結果を使い、円盤の密度構造と磁場、および乱流状態を定量的に議論することができる。円盤外側(乱流領域)と内側(層流領域)の境界には、密度の急激な変化が現れるはずであり、ALMAのダスト連続波による高分解能観測で検出可能である。密度構造の観測結果から乱流の情報を得るために、乱流/層流の分かれる場所(数~数十AU)、および乱流部分と層流部分の密度コントラストという2つの量を予言する理論モデルを構築する。モデルの予言は2つの数値に縮約されるため、ALMAでの観測で急激な密度変化が見つけられれば、それはすぐに本研究結果と比較議論し、円盤を貫く磁場の強さや、ガスの乱流強度などを推定することが可能となる。また、円盤と磁場が同時に時間発展する問題についても、現在研究を進めている。磁場は、降着する円盤ガスに引きずられて、中心星のほうにたまっていく。もし、磁場の引きずりが効果的に働くときには、円盤の内側部分の磁場が非常に強くなる。そして、円盤内側でのガス降着率が大きくなり、円盤内側部分に穴が開いてしまう。このような現象が、いわゆる遷移円盤の形成メカニズムになり得るか、ということも検証していく。
最後に、このようにして得られた円盤ガスと磁場の進化モデルを基本として、つまり最新の理論と観測に基づいた原始惑星系円盤の進化モデルを土台として、微惑星形成の問題に取り組んでいく。
図1. 原始惑星系円盤の面密度進化。中心部にだんだん穴が開いていき、広がっていく。これは、円盤中心部に向かって磁場が輸送され、円盤内側の磁場強度が大きくなり、ガス降着率も増大するためである。一方、10^5yr - 7x10^6yr には、デッドゾーン外側境界(10AU)での急激な密度進化がみられる。