太陽系外惑星の新機軸:地球型惑星へ

文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型) 23年度~27年度

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採択公募研⑧

可視・近赤外線6バンド同時精密トランジット観測で探る太陽系外惑星の大気組成
永山 貴宏(鹿児島大学)

 

 ケプラー衛星などによる相次ぐ発見により、太陽系外惑星の数は、候補を含めて2000個を超えた。これにより、系外惑星の研究は「発見(Discovery)」から、「特徴付け(Characterization)」の時代へと移った。これらの惑星では、軌道半径、質量、大きさなどの測定による特徴付けと、それをもとにした種類分けが進み「木星サイズで主星の周囲を10日程度で公転しているホットジュピター」「地球の数倍程度の大きさを持つスーパーアース」など、太陽系からの類推からは思いもよらなかったカテゴリの系外惑星も定着しつつある。今後の主題の1つは、これらの系外惑星が「どのような大気をまとっているか?」である。
 明るい主星のごく近傍で暗く輝く惑星の大気組成を調べることは非常に難しい。現時点で唯一可能な手段は、惑星が主星の前を通過する際に影となって、主星の光の一部を遮るトランジット現象において、主星の暗くなり方が惑星大気の組成に応じて、観測する波長ごとに異なることを利用する透過分光法だけである。大気を持つ惑星がトランジット時を起こす際、惑星の中心部を通る光は完全に遮蔽されるが、大気部分を通過する光は大気の組成・密度に応じた部分的な減光となる。観測により得る減光量の波長依存性を、理論的に予測された結果と比較することにより、惑星の大気組成を推定することができる。
 この方法は現時点で唯一の方法であるため、世界中の研究者が利用している。しかし、複数の波長、特に可視光線と近赤外線を同時に観測できる装置が稀であるため、多くの場合、異なるグループが異なる観測装置で異なる周回のトランジットで得たデータ点を持ち寄って、1つの系外惑星の大気組成を議論している。そのため、1つの系外惑星の大気組成を決定するにも時間がかかり、これまでに大気組成が調べられた系外惑星の数は、数個のオーダーでしかない。したがって、その大気組成がその惑星に固有であるのか、他の惑星も似たような大気組成であり、普遍的なものかは全く分かっていない。加えて、データをアセンブルする際に、系統誤差が大きく乗る、あるいは、研究グループによって結果が食い違うことも少なくない。また、そもそも系外惑星のトランジット現象では、主星の黒点の大きさが惑星のサイズと比べて無視できない場合もあり、異なる波長のデータを別の周回のトランジットイベントから得ていては、高精度な議論は期待できない。すなわち、「1つ観測装置でより多くの波長を同時に観測する」ことが本質的に重要である。また、系外惑星の大気の普遍性と多様性を調べていくには、今後より多くの系外惑星の大気組成を調べる必要があり、そのためには、多波長同時観測による高い観測効率が必須である。
 本研究では、現在実施している近赤外線3波長(1.2μm, 1.6μm, 2.1μm)での同時系外惑星トランジット観測をさらに可視光線にもひろげ、個々の系外惑星の大気組成を「系統的に、効率的に、そして、高精度に」調べることを目的としている。これにより単にデータの高精度化、効率化だけではなく、「水蒸気・メタンなどの分子の吸収」に敏感な近赤外線領域と「大気中の塵や霞によるレイリー散乱」に敏感な可視光線を同時に観測することで、異なる大気組成を1度に推定可能になる。

 より具体的には、名古屋大学が南アフリカ天文台に所有しているIRSF1.4m望遠鏡+近赤外線3波長同時撮像カメラに追加する形で、可視光線の3波長同時撮像カメラを開発し、可視光線から近赤外線の6波長での同時トランジット観測を可能とする。可視光線3波長、あるいは、近赤外線3波長での同時観測は存在するが、可視光と近赤外線をあわせた6波長での同時トランジット観測は行われておらず、非常にユニークな観測結果が期待される。現在、2015年度完成を目指し可視3波長同時カメラの開発を進めている。