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採択公募研究のご紹介⑤
円盤ギャップ内のダストサイズ分布の決定:観測と直接比較可能な理論モデルの構築
金川 和弘(北海道大学 低温科学研究所)
太陽系のような惑星系は形成時の恒星に付随する原始惑星系円盤の中で作られると考えられている。近年の観測的研究によって太陽系以外の惑星系も数多く見つかっており、候補天体も含めると4000個以上の太陽系外惑星が発見されている。その結果、太陽系の惑星に似た特徴をもつ系外惑星が発見される一方、太陽系の惑星とはかけ離れた特徴をもつ系外惑星も数多く見つかっている。たとえば、ホットジュピターと呼ばれる恒星の非常に近傍を公転しているガス惑星や恒星から数十AU離れた位置を公転している巨大ガス惑星などである。このような太陽系には存在しない特徴を持つ系外惑星の発見によって、宇宙に存在する惑星は従来の惑星形成の標準モデルの予測よりもはるかにバリエーションに富んだ存在であることがわかってきた。この系外惑星の多様性の起源はよくわかっていないが、惑星形成の母体である原始惑星系円盤の中での惑星の形成・進化過程の違いが系外惑星の多様性に関係していると考えられている。
惑星形成の舞台である原始惑星系円盤は、Subaru望遠鏡やALMA望遠鏡の高空間分解能な観測によって、その詳細な構造が明らかになってきた。なかでも、前遷移円盤と呼ばれる円盤は、リング状に円盤ガス密度が減少している領域(ギャップ)を持っているきわめて特徴的な円盤である。このような円盤ギャップ構造は、円盤中に存在する巨大ガス惑星が惑星軌道に沿って周囲の円盤ガスを吹き飛ばした結果として形成されたとする説が有力である。このように、原始惑星系円盤のギャップ構造は円盤に巨大ガス惑星が付随していることを示唆している。しかし、惑星そのものは円盤に比べ非常に小さく、かつ円盤ガスに埋もれているためSubaruやALMAといえども直接観測することは難しい。今後、SubaruやALMAの活躍によって、もっと多くの円盤ギャップ構造が発見され、その詳細構造が明らかになることが予測されるが、その円盤観測の結果とそこに埋もれているはずの見えざる惑星を関係付けるためには、観測結果を惑星が作る円盤ギャップの理論モデルと比較するというステップが必要となる。
ガス惑星が作る円盤のギャップ構造は上記のような重要性もあり活発に研究されており、数値流体シミュレーションやモデル計算によって、惑星の質量と円盤ギャップのガス構造は明らかになりつつある。しかしながら、今後さらなるギャップ構造の詳細観測が期待されるALMA望遠鏡で観測されるのは円盤ガスからの放射ではなく、円盤ガスに含まれるダスト微粒子からの放射が主である。ギャップ内部では円盤ガスとダスト微粒子の回転速度に差が生じることが予測され、その速度差によってある円盤ガスとダスト微粒子の分布が大きく異なる可能性がある。そのため、上記の惑星質量と円盤ガス構造の研究結果をそのまま使うことはできない。そこで、本研究ではギャップ内部の円盤ガスの分布からダスト微粒子の分布を求め、実際の観測と直接比較可能なモデルを構築することで観測的に円盤ギャップの詳細構造が得られた場合、そこから惑星質量を推定する手段を提供する。
本研究の結果は、今後さらに活発に進展するであろう原始惑星系円盤の観測結果を惑星を結びつけて理解する上で重要であり、円盤中で惑星がどのように形成し進化していくのかを解き明かす助けになると考えている。