太陽系外惑星の新機軸:地球型惑星へ

文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型) 23年度~27年度

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採択公募研究のご紹介④

原始惑星系円盤の進化多様性と金属量の関連性の解明
高木 悠平(兵庫県立大学)

 

近年の観測により、多くの前主系列星の周りに惑星形成の場である原始惑星系円盤が見つかっており、その物理的構造は星によって様々であることが判明した。このような原始惑星系円盤の多様性を生む要因を明らかにするためには、個々の天体の各種物理量を明らかにすることが重要である。その中でも特に天体の年齢を明らかにすることは、前主系列星の進化過程を知る上で必要不可欠である。前主系列星の年齢は、一般的に測光観測によって得られる光度と有効温度を、星の進化モデルと比較して求める。しかし、測光観測から求められる前主系列星の光度には、距離や減光、ベーリングの不定性が含まれている。従って光度から算出する年齢は不定性が大きく、進化過程に関する議論にも大きな不定性が残る。

前主系列星の年齢を正確に求めるには、より不定性の少ない新たな年齢決定手法の確立が必要になる。前主系列星は進化とともに収縮し密度が増加するため、星の表面重力を求める事ができれば年齢を導くことができる。星の重力は高分散分光観測で得られる星の大気スペクトルの等価幅から求める事ができる。等価幅は、吸収線の強度をスペクトルの連続光強度で規格化した量であるため、星の距離と減光量に依存しない。加えて、近接する吸収線の等価幅比を算出することで、ベーリングにも依存しない量が得られる。つまり、測光観測で問題となっていた上記の問題点すべてを解消することができる。我々はこれまでに、可視光域のFeとNaの吸収線と、近赤外線域のScとNaの吸収線を用いることで、前主系列星の年齢をより正確に求める方法を確立した。

新たに確立した年齢決定手法を基に、おうし座分子雲中にある前主系列星の年齢を決定し、進化タイムスケールに関する検証を行った。一般的に、原始惑星系円盤はガスやダストが多く含まれる状態から、時間の経過とともに薄くなっていくと考えられているが、光度から求めた前主系列星の年齢と円盤の進化度合いの間に相関関係は発見されていなかった。原始惑星系円盤の進化タイムスケールは天体ごとに異なるという可能性がある一方で、前主系列星の光度の不定性が影響し、タイムスケールを正しく理解できていない可能性も残されていた。そこで、新たな年齢決定法で求められた前主系列星の年齢と円盤の進化度合いの関係を調べると、これまでには明らかになっていなかった相関がみられた(図1)。前主系列星までの距離や減光量、ベーリングに依存せず年齢を求めることで初めて得られた相関である。この研究結果から、おうし座分子雲に属する前主系列星の原始惑星系円盤の散逸タイムスケールはおおよそ3-400万年であることが分かった。これは原始惑星系円盤の普遍的な進化を議論する上で非常に重要な結果だと言える。

おうし座と同様の方法で、へびつかい座分子雲に属する前主系列星の円盤進化タイムスケールを調べた。その結果、へびつかい座分子雲における原始惑星系円盤の進化タイムスケールはおおよそ160万年となり、おうし座のおおよそ半分であった。この結果は、原始惑星系円盤の進化タイムスケールが星形成領域によって異なるということを示唆している。分子雲ごとの進化タイムスケールの違いを生む要因は、分子雲の初期質量や近傍の大質量星の分布などが考えられるが、このうちこれまでにほとんど明らかになっていないのが金属量の影響である。例えば、太陽系外惑星の観測結果からは、金属量が高い星ほど惑星が付随している割合が高いという結果が出ている。また、モデル計算からは、原始惑星系円盤が中心星からの輻射によって散逸するタイムスケールは、金属量に依存することも示唆されている。従って、原始惑星円盤の進化タイムスケールや進化の描像が金属量に依存している可能性がある。金属量は高分散分光観測から求める事ができるが、原始惑星系円盤によるベーリングにより吸収線が本来より浅く観測される。そのため、ベーリング量と表面重力を独立して求める事が困難となっていた。しかし、本研究で用いている等価幅比を使うことで、ベーリングの影響を受けずに星の表面重力や温度、金属量が定められる。本研究では、前主系列星の金属量を正確に求め、原始惑星系円盤の進化に対する金属量の依存性を明らかにすることで、より普遍的な惑星進化の描像を得ることに寄与する。

 


(上図)

おうし座分子雲中の前主系列星の年齢(横軸)と円盤の進化度合い(縦軸、近赤外線域に見られる円盤起因の赤外線超過量)の相関。原始惑星系円盤が3-400万年かけて徐々に散逸している様子を示す。