太陽系外惑星の新機軸:地球型惑星へ

文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型) 23年度~27年度

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採択公募研究のご紹介③

原始惑星系円盤の多波長輻射平衡モデルの構築
花輪 知幸(千葉大学先進科学センター )

 

 ALMA望遠鏡の稼働により原始惑星系円盤の研究は新しい段階を迎えた。既にサイクル0や1の観測により、三日月型に見えるものや腕状の構造をもつものなど、原始惑星系円盤の構造を撮像により捉えられるようになった。すばる望遠鏡など大型望遠鏡に補償光学とコロナグラフを備えた大型望 遠鏡による近赤外線撮像でも、0.1程度の分解能が達成されているので、近傍の原始惑星系円盤では数十AU程度の構造を観測的に捉えられる。ALMAやすばる望遠鏡により得られた撮像からダストやガスの分布や温度などの物理量を見積もるためには、モデル計算が不可欠である。本課題では ALMA 望遠鏡やすばる望遠鏡で得られた画像と対応させることにより、ガスやタダストの分布や温度分布を求めることができる計算コードの作成を目指す。撮像により輝度分布を調べられるのは星から数百 AUの領域で最も重要な熱源は星からの輻射である。原始惑星系円盤の表層にあるダストでは、星からの輻射による加熱と、中間赤外線を放射による冷却が釣り合っている。直接光が届かない深層部では、表層部のダストからの中間赤外線による加熱が、より長い波長の赤外線放射による冷却と釣り合っている。サブミリ連続波では深層部のダストが主な放射源なので、ダストの温度を正しく見積もることが重要である。従って観測されるサブミリ連続波のよいモデルを作るためには、可視光から電波までの輻射が原始惑星系円盤の表層から深層部 へどのように伝播するか精密なモデルを立てる必要がある。
 原始惑星系円盤のモデル計算では、上記の輻射輸送をモンテカルロ法を採用してきた。これに対して本課題では輻射輸送方程式を角度方向に積分した0次と1次のモーメント方程式を数値的に解く。 モンテカルロ法では輻射の角度依存性を詳細に取り入れることができるが、どうしても統計的なゆらぎが残る。モーメント方程式で角度方向に積分を用いるため、角度分解能は下がるが、統計的なゆらぎはなくなる。どちらの場合も、このようにして求められた温度・密度と輻射場を輻射輸送方程式に 代入し、観測者の方向へ放射される輻射強度を求めるので、観測する方向により輝度分布が変わる効果は十分に取り入れることができる。

 図1と2は三日月型に見える原始惑星系円盤 HD142527の北側と南側の断面の予想密度温度分布である。実際の円盤は北側と南側で10倍以上輝度が異なるが、モデルではダストもガスも軸対称なトーラス状に分布していると仮定し、北側用 と南側用でそれぞれ異なる面密度分布を仮定してモデルを作った。 図1、2ともに色は密度を、線は等温度となる場所を表している。密度が高い北側のモデルでは星からの距離とともに急激に温度が下がっている。比較的密度の低い南側のモデルでは温度が高めで鉛直方向に膨らんでいる。またどちらのモデルでもトーラスにより輻射が遮蔽されるため、円盤の中央面でも半径の大きいところは温度が低くなっている。このようにモデル化できるのは、波長 0.1μmから3mm までの輻射をλ/∆λ=21.7の波長分解能で影の効果も含めて計算しているからである。 温度により鉛直方向の厚みが変わることも流体力学方程式を同時に解き求めた結果である。ここで得られた密度・温度分布から、円盤を斜めに見た場合の340 GHz帯やH-bandの予想輝度分布も求められる(図3)。
 現在の計算コードでは原始惑星系円盤が軸対称であると仮定しているが、モデルの計算時間を短縮し、三日月型や渦状構造など、3次元構造をもつ円盤のモデルの製作にも取り組む予定である。現在のコートで計算量が多いのは、平衡状態に達するまでを物理法則に忠実に時間発展を計算しているためである。これは輝度が低い南側の領域に対応するモデルの作成では比較的短時間で計算できたが、明るい北側のモデル作りでは計算時間は長大になった。明るい領域は面密度が高いため輻射が閉じ込められるため、平衡に達するまでの時間尺度が長くなるためである。多くの観測では輻射平衡にある状態にだけ興味があるので、物理的な進化を忠実に追う必要はない。平衡状態を求めるためのアルゴリズムを考え直し、計算時間の短縮を図る。
 紫外線からミリ波までの広い波長帯を考慮した輻射輸送モデルの作成と多波長観測を組み合わせることにより原始惑星系円盤の構造を明らかにし、新学術領域研究の推進に寄与したい。

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