太陽系外惑星の新機軸:地球型惑星へ

文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型) 23年度~27年度

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採択公募研究のご紹介①

「形成過程から探る低温度星周りの短周期スーパーアースの大気および内部組成の起源」
堀 安範(University of California, Santa Cruz/国立天文台 理論研究部)


  NASAのKepler宇宙望遠鏡の活躍により、現在までに約4,000個以上の太陽系外の惑星(系外惑星)候補が発見されている。今や、中心星近傍を周回するhot Jupiterのような短周期系外惑星のみならず、数10天文単位以遠に存在する遠方惑星の姿まで直接撮像法で捕らえられるようになって来た。系外惑星の統計学から、宇宙には木星や土星に代表されるガス惑星以外に、岩石惑星や氷惑星のような低質量惑星が普遍的かつ豊富に存在することが分かって来た。地球から海王星サイズの惑星(以下、Super-Earth)の分布が明らかになりつつある今、系外惑星とりわけ低質量惑星本体の姿(大気や表層環境、内部組成)および生命居住可能性が次の中核を担うサイエンステーマになって来ている。
  近年、口径10m級の大型地上望遠鏡(Subaru・Keck・VLT)、Hubble宇宙望遠鏡そしてWarm Spitzerを駆使して、系外惑星とりわけSuper-Earthの大気や内部組成を探る観測的研究が盛んに行われ始めている(図1参照)。これまでに一次食時の大気分光(透過スペクトル)から、太陽系近傍の低質量星周りに存在するSuper-Earth(M型星周りのGJ 1214b・GJ 436b・GJ 3470b、K型星周りのHD97658b・HAT-P-11b)について、上層大気の組成(水素に富む大気あるい水/二酸化炭素/メタンから成る大気)や雲/もやの存在が議論され始めている(図2参照)。今後、Kepler宇宙望遠鏡の後継機と目されるTESSの全天惑星探査によって、Super- Earthの発見数は飛躍的に増大するとともに、「系外惑星の特徴付け」を目指したESAのPLATO計画、更には2020年代後半の30m級の超大型望遠鏡時代も控えている。これからの観測的進展からも、系外惑星の大気および内部組成に関する理論研究はより一層重要となって来ている。

  今後2,3年で赤外線視線速度および測光観測によって、とりわけ低温度星(低質量星)周りの短周期Super-Earthの大気および内部組成の特徴付けが益々、進んで行くと期待される。そこで、我々は理論的な立場より、形成過程から低温度星周りのSuper-Earthの大気および内部組成を明らかにすることを目指している。短周期Super-Earthは月形成のような天体衝突を経て、誕生した可能性が高い。天体衝突では、天体内部は衝撃圧縮され、超高温状態となる。氷マントル/岩石コアや大気成分は蒸発/剥ぎ取りを経験するとともに、惑星内部の物質混合を引き起こす。物質の剥ぎ取りは惑星の全体組成を決め、惑星内部での物質の空間分布はその後の熱史を左右する。そこで、系外惑星大気の分光観測と起源を繋ぐために、我々は天体衝突に伴う物質の剥ぎ取り /混合過程を流体計算から明らかにし、天体衝突後のSuper-Earthの熱進化に迫りたいと考えている。さらに、太陽型星に比べて、暗く、冷たい低質量星では地球軌道より内側の領域でも、惑星表面に液体の水を保持出来る温度環境にある可能性が高い。従って、低質量星周りの短周期Super-Earthの大気および内部組成、熱進化の理解は、太陽系外での生命居住可能な惑星を検証する判断材料の一つになると期待している。

 

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