太陽系外惑星の新機軸:地球型惑星へ

文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型) 23年度~27年度

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採択公募研究のご紹介⑦

惑星系形成過程の解明に向けて
塚越 崇(茨城大学 理学部)

 

 惑星系の誕生を明らかにすることは、とても重要な科学目標の一つです。我々の太陽系、そして地球がどう産まれたのか、あるいは、地球のような惑星は他に存在しうるか等の疑問に迫るものです。このために我々は、惑星系の母体とみられる「原始惑星系円盤」(2012-04-24付けのコラム参照)を詳しく調べています。原始惑星系円盤の全体的性質や、それを形作る物質の成り立ち、さらに円盤から惑星系へとどう進化していくのか、といった疑問を、観測に基づき実証的に探ることが出来るのです。近年の劇的な装置能力の向上により、原始惑星系円盤の詳細な観測が出来るようになってきました。
 最近では、原始惑星系円盤の中でも、「遷移段階円盤」と呼ばれる形状が研究者の間で注目されています。これは、原始惑星系円盤の内側で物質が乏しくなり、穴のようになっているものです。穴の形成要因については諸説ありますが、その一つとして原始惑星の存在が考えられています。このような観点から、原始惑星系円盤の進化・惑星系形成過程の研究に於いて重要視されています。

 そのような遷移段階円盤を探るため、我々の研究グループでは、Sz 91という天体に着目して研究を行ってきました。この天体は、太陽の半分程度の重さの若い星で、おおかみ座分子雲の方向にあります(地球からの距離650光年)。年齢は約500万年です。これまでの観測から、天体の周りに遷移段階円盤が存在している事、またかなり大きい穴になっている事が指摘されていました。しかしながら、それらの観測結果は間接的なものであり、円盤構造を直接明らかにした観測ではありませんでした。そこで我々の研究グループでは、Atacama Submillimeter Telescope Experiment(ASTE)やSubmillimeter Array(SMA)を用いた電波による観測と、すばる望遠鏡を用いた赤外線での観測を行ってきました。巨大望遠鏡による高い分解能(望遠鏡の視力)で実際に円盤形状を描き出す事、またこの円盤がどのような進化をするのかを捉える事を目的としています。

 すばる望遠鏡の新型カメラ「HiCIAO」によって得られた最新画像によって、円盤内側にある穴を鮮明に捉える事に成功しました。下図が得られた天体の画像です。三日月状の光が天体の周囲に広がっているのが見えます。これは円盤内側での散乱光を捉えているものと考えられ、明るい部分が円盤手前側になります。三日月の内側では、光が見えなくなる部分があり(図中矢印参照)、穴になっている様子が分かります。穴の大きさは65AUほどあり(1AUは太陽と地球の距離)、円盤全体の大きさのおよそ3分の1に相当します。これはこれまで観測されている遷移段階円盤の中でも1、2を争う大きさです。
 他波長のデータを組み合わせて複雑な解析を行ったところ、この穴構造の中にさらに少数の塵が残存している事が分かりました。この塵については詳しい構造はまだ分かっていませんが、惑星系形成に関わる塵の分布ではないかと期待しています。

 一方、SMAを用いた電波での高分解能観測では、円盤内の冷たい塵(およびガス)の分布を直接捉えることに成功しました。下図中の等高線で電波強度の分布を示しています。電波の強い部分は、赤外線で見えている円盤の外側をなぞるように分布していました。電波で捉えることの出来る冷たい塵は、円盤のより外側に分布している事がわかります。また電波では図中上半分だけが明るくなっており、円盤内の物質が偏っている様子を示しています。このような物質の偏りを産む要因の一つとして、穴内に惑星の存在を考えることが出来ます。

 我々が行ってきた観測によって、Sz 91を取り巻く、とても大きい穴を持つ遷移段階円盤の姿が、直接的に明らかになりました。この遷移段階円盤には、まだ多くの冷たい塵やガスも残っており、これらを使って今まさに惑星系が産まれている段階かもしれません。一方、Sz 91のような遷移段階円盤は、円盤寿命のおよそ1-10%程度という、極めて短い時間で無くなってしまうことも、ASTEを用いた観測から分かりました。貴重な期間にある、重要な天体サンプルと言えます。今後、更に詳細な観測を行なっていく事で、惑星が形成されていく様子が明らかになっていく見込みです。この天体は近々、大型電波干渉計Atacama Large Millimeter/Submillimeter Array(ALMA)を用いて観測される予定で、惑星系形成過程に関する研究の大きな進展があると期待しています。

 

図: Sz91の赤外線(2.2µm)イメージ(カラー)と電波(860µm)放射強度分布(コントア線)。赤外線イメージの中心部は誤差が大きい為隠してある。中心の星マークが天体(Sz 91)の位置を表している。右下はサイズ比較のための海王星軌道を示している。

 

 

 

 

 

 

 

 

図: Sz91の赤外線(2.2µm)イメージ(カラー)と電波(860µm)放射強度分布(コントア線)。赤外線イメージの中心部は誤差が大きい為隠してある。中心の星マークが天体(Sz 91)の位置を表している。右下はサイズ比較のための海王星軌道を示している。