太陽系外惑星の新機軸:地球型惑星へ

文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型) 23年度~27年度

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採択公募研究のご紹介⑤

新たなダスト発生機構:微惑星衝撃波による微惑星蒸発
田中 今日子(北海道大学 低温科学研究所)

 

 惑星形成の標準的なシナリオによると、中心星をとりまくガス円盤(原始惑星系円盤)において、氷と岩石物質から成るダスト微粒子が集積してキロメートルサイズ以上の惑星の卵である"微惑星"が形成される。微惑星はさらに衝突合体を繰り返し1000kmサイズ以上の原始惑星へと成長する。このような惑星成長過程は円盤ガスの中で起こり、微惑星同士の重力相互作用により軌道が円軌道から楕円軌道となると円盤ガスとの微惑星との間に相対速度が生じるようになる。この相対速度が音速を越えると、微惑星の進行方向前面に衝撃波(微惑星衝撃波)が発生する。この微惑星衝撃波は惑星成長期に頻繁に発生すると考えられる。

 微惑星衝撃波により円盤ガスは急激に加熱され微惑星本体も加熱する。この衝撃波による微惑星の加熱過程は従来の惑星形成論では考慮されてこなかった。我々は惑星形成期において氷微惑星の蒸発が頻繁に起こり、観測や惑星形成のシナリオに大きな影響を与える可能性があることを明らかにした[1]。我々が考える微惑星衝撃波による微惑星蒸発過程の描像を示したものが図1である。衝撃波が発生すると、衝撃波後面の円盤ガスは高温になり微惑星表面に流れる。この高温ガスからの加熱により微惑星の表面物質の温度が蒸発温度を越えると表面から蒸発が起きる。蒸発したガスはやがて冷えて再凝縮し氷微粒子となって円盤ガスに放出される。また氷微粒子だけでなく、氷微惑星に含まれるシリケイトダストも衝撃波からの強い風を受けるために円盤ガスに放出される。以上のプロセスを経て、微惑星全体は縮小する。

 

原始惑星系円盤ガスと微惑星との相対速度が音速を越えると衝撃波が発生する。衝撃波により高温になったガスは微惑星表面に流れ表面の氷物質を蒸発させる。蒸発したガスは冷えて小さな氷微粒子となって円盤に放出される。

 

 

  

 

 

 

 

図1.
原始惑星系円盤ガスと微惑星との相対速度が音速を越えると衝撃波が発生する。衝撃波により高温になったガスは微惑星表面に流れ表面の氷物質を蒸発させる。蒸発したガスは冷えて小さな氷微粒子となって円盤に放出される。

 

 

 我々は微惑星衝撃波による微惑星表面の加熱と蒸発を記述するモデル化を行い、衝撃波の強さと微惑星の温度との関係について調べた。氷微惑星の場合の衝撃波速度と天体の表面温度との関係の1例を図2に示す。衝撃波速度が大きくなると、微惑星の表面温度が上昇する。原始惑星系円盤は低圧なので200K程度で氷微惑星は効率的に蒸発する。またこのモデルを用いて惑星成長期に氷微惑星がどの程度蒸発するのかについて調べた。微惑星質量が半分になる蒸発時間と軌道長半径との関係を示したものが図3である。氷が蒸発する雪線(スノーライン)から軌道長半径3-4AU付近までの広い領域において、微惑星蒸発が効率的に起きる結果が得られた。100kmサイズの微惑星は円盤ガスの寿命である1千万年程度よりも短い時間内に蒸発する。  
 微惑星蒸発は観測や惑星形成シナリオに影響する可能性がある。原始惑星系円盤のSED観測によると、原始惑星系円盤が存在する1千万年程度の長いタイムスケールにわたり赤外スペクトルの超過が見られ、ミクロンサイズのダストが存在すると考えられている。これに対し、ダスト成長理論モデルでは微小ダストは1万年程度で成長し円盤中心面に沈殿することが示されているため、ダストや微惑星の衝突破壊による微小ダストの再生成が起こっていると考えられている。微惑星蒸発が起きると、蒸発したガスは再凝結し小さな氷微粒子を大量に生成する。また氷微惑星に含まれるシリケイトダストの放出も起きると考えられる。衝突破壊で微小ダストが生成する場合、ミクロンサイズ以下となるのは破片のごく一部である。一方、氷微惑星蒸発における再凝縮では、ミクロンサイズ程度以下のダストのみが大量に生成され、観測を説明できる可能性がある。
 また微惑星蒸発は小惑星や木星型惑星形成にも影響する可能性がある。微惑星蒸発が効く領域は小惑星帯付近(2-4AU)と一致する。小惑星は微惑星の生き残りと考えられており、スノーラインより外側の小惑星には氷が多く含まれているはずであるが、現在の小惑星帯には岩石質の小惑星が多数観測されている。微惑星蒸発が起きれば氷物質の蒸発により岩石成分が残されるため氷微惑星を岩石微惑星へと遷移させることが可能である。また本結果は10地球質量程度の大きな原始惑星が作られると、その重力散乱により周りの微惑星蒸発が効率的に起こることを示した。原始惑星は周りの微惑星との衝突合体により成長するため、微惑星の蒸発が起きると原始惑星本体の成長速度が遅くなる。つまり微惑星蒸発により木星型惑星の形成が妨げられる可能性がある。微惑星蒸発の効果は特に円盤の内側で効率的に起きるため、本研究の結果は円盤内側(4AU以下)では木星形成は難しいことを示す。このような効果は木星型惑星の形成場所に制約を与えるかもしれない。 
 本研究では木星型惑星が形成される前のステージに着目してきたが、木星型惑星が形成された後では木星型惑星との重力相互作用によりさらに微惑星の軌道の離心率が上昇すれば、より激しい微惑星蒸発が起きるだろう。以上述べたように、微惑星蒸発は惑星形成過程にさまざまな影響を及ぼす可能性があり、今後さらに詳しい検討が必要である。

[1] K. K. Tanaka, T. Yamamoto, H. Tanaka, H. Miura, M. Nagasawa, and T. Nakamoto, Evaporation of Icy Planetesimals due to Planetesimal Bow Shocks, the Astrophysical J., in press.

 

 

図2.衝撃波速度と天体表面温度との関係: 澱み点における微惑星天体の表面温度と衝撃波後面のガス温度を衝撃波速度の関数として示す。αはガスから天体表面への熱伝導の効率を表す無次元量(スタントン数)を示す。 円盤ガスの温度は75Kと低いが、衝撃波により微惑星は200K程度まで上昇し氷物質が蒸発する。

 

図2.衝撃波速度と天体表面温度との関係:
澱み点における微惑星天体の表面温度と衝撃波後面のガス温度を衝撃波速度の関数として示す。αはガスから天体表面への熱伝導の効率を表す無次元量(スタントン数)を示す。 円盤ガスの温度は75Kと低いが衝撃波により微惑星は200K程度まで上昇し氷物質が蒸発する。

 

 

 

 

図3.氷微惑星の蒸発時間と軌道長半径との関係:10地球質量の原始惑星の周りの微惑星(半径100km)の蒸発時間を軌道長半径の関数として示す。αは熱伝導効率を表す無次元量(スタントン数)。一点鎖線は原始惑星系円盤のスノーラインを示す(ここでは冷たい円盤モデルを用いた)。水色の領域は現在の小惑星帯の領域を表しており、微惑星蒸発が小惑星帯から円盤内側において効率的に起こることを示す。

 

図3.氷微惑星の蒸発時間と軌道長半径との関係:
10地球質量の原始惑星の周りの微惑星(半径100km)の蒸発時間を軌道長半径の関数として示す。αは熱伝導効率を表す無次元量(スタントン数)。一点鎖線は原始惑星系円盤のスノーラインを示す(ここでは冷たい円盤モデルを用いた)。水色の領域は現在の小惑星帯の領域を表しており、微惑星蒸発が小惑星帯から円盤内側において効率的に起こることを示す。