太陽系外惑星の新機軸:地球型惑星へ

文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型) 23年度~27年度

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採択公募研究のご紹介④

太陽系外惑星の内部構造モデル構築に向けたレーザー高圧物性実験からのアプローチ
佐野 孝好(大阪大学 レーザーエネルギー学研究センター)

 

 本研究は、国内で唯一の大型レーザーである「激光XII号レーザー」などを用いて、巨大惑星内部の極限状態を実験室で直接再現し、その物理状態を解析することを目的としている。本研究では特に、天王星に代表される巨大氷惑星に着目する。太陽系外でも数多く発見されている巨大氷惑星の内部構造やダイナモ機構を、実験的に検証された状態方程式や電気伝導度を用いて正確に理解することで、太陽系内外の惑星誕生シナリオを統一的に解明していきたい。

 巨大氷惑星の場合、その質量の大部分を占める氷マントル層が、内部構造を理解する上で鍵となることは言うまでもない。つまり、内部構造モデルの構築には、水・アンモニア・メタンの超高圧下での状態方程式が不可欠な要素となる。 しかしながら、氷マントル層にメタンハイドレードが存在する可能性が指摘されているなど、これらの構成成分が惑星内部の極限状態で一体どのような状態にあるのか、実験的検証は極めて限られている。

 氷マントルの圧力はおよそ100GPaから1TPaで、温度は2000Kから6000Kと推定されている。このような超高圧かつ超高温状態の実現には、まさにレーザー衝撃圧縮実験が最も適した手法と言える。ところが、これまでのところレーザー 実験データは、水について数例あるのみで、ほとんど存在していない。そのため、理論モデルには、低圧領域の実験データから外挿した状態方程式が使われており、その不定性は極めて大きいのが現状である。

 観測では決して見ることのできない惑星内部には、その惑星の形成過程や進化過程を探る上で、極めて重要な情報が隠されていると考えられる。そこで本研究では、水・アンモニア・メタンの超高圧領域での状態方程式データを実験的に取得し、実験的に裏付けられた巨大氷惑星の内部構造モデルの構築を目指す。

 さらに本研究では、実験的に得られた状態方程式や電気伝導度を用いて、惑星ダイナモの直接数値シミュレーションに展開していくことを視野に入れており、 惑星電磁気学的にも内部の構造やダイナミクスに迫っていきたいと考えている。

 太陽系の巨大氷惑星には、その磁場構造にも特徴がある。天王星・海王星のどちらも磁場を持つことが知られているが、その構造は複雑で、地球や木星でみられる双極磁場が卓越していない。例えば、天王星の磁場の中心は惑星の中心から大幅にずれており、自転軸とも60度も傾いている。

 惑星磁場は、内部のダイナモ作用によって維持されている。巨大氷惑星の場合、 大気層の水素が金属化するには圧力が低すぎるため、球殻状の氷マントルがダイナモ運動の源になっていると考えられている。その際、氷マントル層において伝導性流体となっている領域の形状が、磁場構造に大きく影響すると予想されている。

 氷マントルは、水分子がイオンに分解されてできた「イオン水」の層や、さらに深部では酸素が結晶化し、水素イオンがその結晶格子の中を漂う「超イオン水」の状態にある層から成っている。これらの状態における電気伝導度を計測し、ダイナモの数値シミュレーションに組み込むことで、磁場のより現実的な推定が可能となる。さらに、その結果を実際観測された磁場と比較することで、 内部構造やダイナミクスに制限を与えられるはずである。

 トランジット法による惑星探査衛星ケプラーの成果も出始め、質量と半径から平均密度が測られた系外惑星の数は、今後も益々増加することが期待される。 本研究では、まずは磁場が測られている太陽系内の巨大氷惑星を、「高圧物性実験」と「惑星ダイナモシミュレーション」の結果を駆使しながら理解していく。その結果、情報の少ない太陽系外惑星の内部構造や磁場についても予測が可能となり、将来的にはその形成過程まで議論ができるようにしていきたい。