太陽系外惑星の新機軸:地球型惑星へ

文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型) 23年度~27年度

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採択公募研究のご紹介③

深部対流を考慮した系外ガス惑星表層大気運動形態の多様性の研究
竹広 真一(京都大学 数理解析研究所 )

 

 近年、天文学的手法の技術の発達により多くの太陽系外のガス惑星が発見されるようになった。これらの新たに発見された系外ガス惑星では、これまで知られていた木星・ 土星・天王星・海王星に見られる惑星大気の循環とパターンの多様性から想像するに、より多様な惑星表層形態を共なっていることが期待される。本研究は汎用的なガス惑星大気モデルの開発とそれを運用したパラメター研究により、系外惑星大気の表層運動形態の多様性を調べることをめざすものである。

 太陽系外ガス惑星大気モデリングの研究はここ数年内に始まり、現在さかんになりつつある。そのような研究で用いられているモデルは、浅水モデルあるいはプリミティブモデルといった、惑星大気表層での水平方向に広く鉛直方向に浅い横長の大気循環しか表現できないものでしかない。しかしながら系外ガス惑星においても、木星で考えられているように、内部熱源に伴う深部の大気運動が表層の循環形態に影響している可能性がある。そこで本研究は、系外ガス惑星大気の表層と深部の流体運動を同時に表現できるモデルを構築し、木星・土星で想定される状況を出発点として外部パラメターをさまざまに変化させたときの表層大気運動形態の遷移を調べることにより、系外ガス惑星の表層の流体運動形態の多様性を追求することを目的としている。

 平成 24 年度はこれまでに開発している 3 次元回転球殻ブシネスク流体モデルをベー スとして非弾性系ガス惑星大気モデルの定式化と構築を行っている。まず、 回転球殻内の非弾性流体の支配方程式の定式化を行った。流れ場の定式化ではトロイダル・ポロイダルポテンシャルを用いて非発散運動量(質量フラックス)場を表現した。また、もっとも基本的な熱境界条件である温度固定、熱フラックス固定の場合に加えて、太陽放射を意識した外側境界の不均一な熱境界条件を導入できるように設計した。これらの導かれた方程式系にしたがって、スペクトル法によるモデルを現在構築中である。
 われわれはこれまでに、地球流体数値実験のための Fortran90 を用いたプログラミングの手法とテクニックについて研究してきている(階層的地球流体スペクトルモデル集 SPMODEL, http://www2.nagare.or.jp/mm/2006/spmodel/index_ja.htm)。その手法を用いることにより、支配方程式をスペクトル変換した定式化をすることなしに直接支配方程式からスペクトル法によるプログラムを構築することができる。具体的に行っているプログラミング作業は、既に開発を終えている 3 次元回転球殻ブシネスク流体モデル(http://www.gfd-dennou.org/library/dynamo/)に動径方向の基本場密度成層を導入し、表層安定成層を表現できるように改造することである。

 非弾性系ガス惑星大気モデルを構築した後には、モデルを用いたパラメター数値実験を行い、基本場密度分布ならびに内外半径比などの外部パラメターに対する流れのパターンの変化を観察し、物理的に解釈し理解することをめざす予定である。ガス惑星大気の成層安定な表層部と深部の対流領域を同時に扱う試みが本研究の学術的な特色である。表層大気運動形態に対する深部対流の影響を評価することで、これまでに見いだされていない惑星大気循環の形態が発見されることが期待される。

 また、 系外惑星の研究を行う意義の一つに、太陽系以外の惑星を新たに知ることに加えて、あらためてわれわれの太陽系を良く知ることにつながることがあげられる。パラメター研究によりあきらかにされる系外惑星大気の多様性を認識することで、木星などの太陽系内ガス・氷惑星の大気循環の理解が深まり、普遍的あるいは特異な特徴を知ることができると期待される。