太陽系外惑星の新機軸:地球型惑星へ

文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型) 23年度~27年度

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採択公募研究のご紹介②

第2、第3の地球を探す −近赤外線分光器IRDの開発−
西山 正吾(国立天文台・太陽系外惑星探査プロジェクト室)

 

 私たちの宇宙は、惑星で満ちあふれています。これまでに800個以上の、太陽系外にある惑星が発見されました。惑星が普遍的な存在であることが確認された今、天文学者たちの興味は次の点に移りつつあります。第2、第3の地球は存在するのか。そこに生命は生まれうるのか。これらの疑問に答えるために、私たちはIRDと呼ばれる、新たな観測装置の開発を進めています。太陽よりも小さな恒星を周回する、地球とよく似た惑星の発見がその目的です。この装置の重要な開発要素のひとつが、星からの光を装置へ送る光ファイバーです。この装置に最も適した光ファイバーの性質を検証するために、私たちは実験を続けています。

 これまでの惑星探査は、主に太陽に似た恒星を周回する惑星をターゲットに行われてきました。しかし結果として、太陽のような星の周りにある、地球とよく似た大きさ・環境にある惑星の探査はとても難しいことが分かりました。まず公転周期が長い、という問題があります。このような惑星は、地球と同じくらいの時間をかけて主星を1周します (惑星軌道の中心にある恒星を“主星”といいます)。つまり惑星を発見し、その公転などを詳しく調べるためには、少なくとも数年間の継続的な観測が必要になってしまいます。
 また主星と惑星との距離が遠く、大きさもずいぶんと違う、という点もあります。惑星そのものを直接見ることはとても難しいため、惑星を発見するためには、主星の性質から間接的にその存在を導き出す必要があります。惑星が及ぼす主星のふらつきや、惑星が主星の前面を通過するときの減光などです。しかし惑星が主星から遠く、地球のように小さい場合、主星のふらつきはとても小さくなり、前面通過の確率もずっと低くなってしまいます。
 そこで私たちは、太陽よりも小さい、M型主系列星(以下M型星)とよばれる星を周回する地球型惑星を探すことにしました。まずM型星は太陽に比べて暗いため、惑星が地球と同じような温度になるためには、主星に近くなければなりません。そうすると惑星の公転周期は数日から数週間程度と、地球に比べてとても短くなります。その分、短期間で多くの周期を観測できます。また主星に近いので、前面通過の確率も高くなります。さらにM型星は、太陽に比べて半分から10分の1くらいの重さしかありません。主星と惑星が近いことと相まって、主星のふらつきがずっと大きくなります。最後にM型星は、太陽のような恒星に比べてとてもたくさん存在します。これらのことを考慮すると、太陽のような恒星よりもM型星の方が、地球に似た惑星を発見できる可能性が高いと言えます。
 ただし、M型星の観測にはひとつ難点があります。星が小さくて暗いため、主星の観測が困難になってしまうことです。この点を克服するためには、赤外線での観測が重要になります。太陽に比べてM型星の温度は低く、可視光よりも赤外線で明るく輝いているからです。しかし装置の温度管理や検出器などの難点から、可視光に比べて、赤外線観測装置の開発は遅れていました。
 私たちは赤外線で星のふらつきを測定する、IRD (InfraRed Doppler、赤外線ドップラー装置の略)とよばれる装置を開発しています。専門的には高分散分光器と言い、星からの光を波長ごとに細かく分解した強度(スペクトル)を測定する装置です。星のスペクトルには、特定の波長だけ強度が弱い吸収線がたくさん現れます。これは星の内部から出てくる光が、星の大気にある原子や分子によって遮られてできるものです。星が惑星の公転によってふらつくと、この吸収線の位置(波長)も少しずつふらつきます。この吸収線のふらつきを測定することによって、惑星の重さや公転周期を決めることができるようになります。
 しかし地球のような惑星による、主星の小さなふらつきを測定するためには工夫が必要です。地球大気のゆらぎによって、星の光の進む方向は時々刻々と微妙に曲げられます。そのため装置へ入る星の光の位置がほんの少しゆらぎます。この小さなゆらぎが、地球のような惑星の発見の邪魔になります。星の位置が変化すると、星がふらついているように見えてしまうからです。
 この問題を解決するための重要な要素が光ファイバーです。まず望遠鏡で集めた光を一旦光ファイバーへ導入します。そしてその後、光ファイバーから観測装置へ光を出射します。この過程で、光ファイバーの中でスクランブルという現象が生じます。これは、光ファイバー入射時に偏りのあった光の分布が、ほぼ一様になって出射される、という現象です。この特徴を使うと、仮に星の光の位置が光ファイバー入射時に変化したとしても、光ファイバー出射位置では常に一様な光になり、位置の変化しない安定した光を装置に導入することができるようになります。
 IRDで使う光ファイバーは、上記のスクランブル効果がよく効くことに加えて、光ファイバー中での光の減衰が小さいことも重要です。このような性質を持つ光ファイバーの材質や形状を知るために、私たちは実験を続けています。その結果、IRDに適した光ファイバーの候補がいくつか見つかりました。まだ最終的な結論は得られていませんが、地球のような惑星を発見するための装置に最も適した光ファイバーが得られつつあります。観測開始目標は2014年、その後数年の観測を経て、多くの地球のような惑星を発見できることを期待しています。