惑星の種 "微惑星"の謎
地球を含む太陽系の惑星達、さらに他の恒星をまわる惑星達は、若い星を取り囲むガス星雲の中で、そこに含まれる岩石や氷でできたミクロン以下の固体の微粒子(ダスト)を原材料とし誕生したと考えられています。惑星形成の標準的な理論では、まず最初にダストが集まってキロメーターサイズ程度の微惑星と呼ばれる小天体が作られ、その微惑星がさらに衝突合体を繰り返すことによって、最終的に惑星が作られたとされています。
しかし、この惑星の種ともいえる微惑星が作られた過程については、いくつかの深刻な問題が残されており、研究者達にとっては悩みの種となっています。最大の困難は、キロメーターサイズより小さい天体の重力は非常に弱く、合体させるのが難しい点です。微惑星への微弱な重力による集積は、ガス星雲内のわずかな風がふくことでも妨げられてしまうのです。その他、メートルサイズまで成長したダストは星雲ガスからの強いガス抵抗を受け恒星へ落ちてしまうという、ダスト落下の問題も指摘されてます。
我々のグループでは、コンピュータシミュレーションにより宇宙ダストの衝突合体過程を模擬し、ダストはどれだけ付着し易いのか、どのような内部構造を持っているのかなどを明らかにすることで、微惑星形成の謎の解明を試みました。ミクロンサイズの微粒子から出発し、それらが合体を繰り返して成長すると、微粒子の集合体がつくられます(図1)。これが惑星形成初期に存在した宇宙ダストの姿です。このようなダストが付着するのは、重力によるものではなく、粒子をつくる分子間に働く化学的な結合力によるものです。我々が行った、ダストの合体成長のコンピュータシミュレーションによって、ダストは図1のように非常に空隙の多い構造をもつように進化することが明らかになりました。従来、衝突の勢いで空隙は容易に圧縮されるだろうと予想されていましたが、実際には圧縮はなかなか進まないことが分かってきたのです。
我々のコンピュータシミュレーションにより、空隙の多いダストは非常に付着しやすいことも明らかになりました。ダスト同士の衝突速度が十分高速である場合、ダストは合体せず粉々に破壊されてしまいます。ダストが合体できる最大の衝突速度を、我々はコンピュータシミュレーションにより調べました(図2)。それによって、氷でできたダストは時速二百km以下の衝突速度であればほとんど破壊せず合体できるという驚くべき結果が得られました。岩石を主成分である場合でも、その周りを氷が覆っている粒子であれば、同じ結果になります。このような高速衝突でも付着できる結果になった1つの原因は、ダストの空隙の多い構造にありました。衝突の際の衝撃を空隙の多い構造によってうまく吸収することができるのです。さらに、ダストがミクロンサイズという非常に小さな粒子で構成されていることも重要な一因となっています。小さな粒子から作られていれば、個々の粒子が接触している面積の全体が増え、全粒子の結合エネルギーも大きくなり、破壊されにくくなるのです。
ダストがこのように付着し易いことから、微惑星は重力の助けを借りずに付着成長だけでつくられたのだという説を我々は提案しています。付着により成長するので、重力が弱いことは全く問題になりません。また、空隙が多く膨らんだダストの付着成長は素早く起こるため、ダストが落下してしまう効果も問題になりません。このように、従来問題とされていた点が付着成長説ではうまく解決できるのです。
我々が提唱した微惑星形成の付着成長説を天文観測で実証することが、次の課題となっています。そのために、成長途中にある空隙が多い構造をもったダストを、惑星形成現場である若い恒星の周囲のガス星雲を赤外線望遠鏡や電波望遠鏡で観測して直接確認しようという計画を現在進めています。空隙が多く膨らんだダストは望遠鏡でどのように見えるのか?それを確認するためにどの望遠鏡を用いてどのように観測するのがよいのか?これらの課題をひとつひとつ解決していきながら、空隙の多い膨らんだダストが本当に惑星形成現場にあるのか否かの解明へ、我々は迫りつつあります。
田中秀和(北海道大学)